寡黙なる巨人
そして生の喜びがひしひしと伝わってきます。
脳梗塞になって半身不随の後遺症、と書くと、簡単なのですが、
実際は、声を出す、食事を飲み込む、立つ、歩く、などの当り前に
無意識で動いていた筋肉が動かなくなってしまい、生きるだけで絶望的な苦しみが著者を襲います。
ただ、この本は、病後の苦しみや、日本の医療(というかリハビリ制度)の不備を指摘している訳ではありません。
「病という抵抗のおかげで、何かを達成したときの喜びはたとえようのないものである。初めて一歩歩けたときは、涙が止まらなかったし、初めて左手でワープロを一字一字打って、エッセイを一篇書き上げたときも喜びで体が震えた。
今日は「パ」の発音が出来たといっては喜び、カツサンド一切れが支障なく食べられたといっては感激する。なんでもないことが出来ない身だからこそ、それが出来たときはたとえようもなくうれしいのだ。」
私も先日、人生ベスト3に入る二日酔いになり、終日、吐き続けて痛感しました。
「健康のためなら死ねる」
多田さん、ごめんなさい。
敗北を抱きしめて(上巻)
本書は、戦後の大混乱の中を、いろんな日本人がいろんな生き方をしていた、ということをそれこそ小説、音楽、風俗、いろんな資料を基に教えてくれます。
上巻を通して感じたことは、アメリカの押し付け民主主義を、日本人たちは混乱しながらも明るく受け入れた、ということです。
そしてその日本人たちはなんだか、「明るく無邪気」です。
日本人たちは敗北を抱きしめながら、傲岸不遜なアメリカの思惑と化学反応をしながら、日本的民主主義ができていきます。
さて下巻へ
<面白かったところ>
・日本と連合国の戦争は3年8か月なのに対して、占領期間は6年8か月と約2倍。
(改めて言われると確かに長いなーと思いました)
・日本占領はアメリカ一国によって為され、被害を受けたアジアの人々は関われなかった。
・アメリカ人たちは、この敗戦国の政治、社会、文化、経済の網の目を編みなおし、しかもその過程で一般大衆のものの考え方を変革するという、他国を占領した軍隊がかつてしたことのないような企てに取りかかった。
・軍国主義というイデオロギーは戦後すぐに捨てられた。イデオロギーがどんなに脆いのかを教えてくれる。
・東南アジア、太平洋の兵士の死因第一位は餓死、に加えて、戦後、本土の国民も飢えで餓死している。とにかく飢餓だらけ。
(昔から気合と根性やなー)
・日本人は、敗戦までのほとんど百年近い間、根本からの変化をつねに予測し、かつその変化に適応するように訓練されていた。
ニッポン景観論
「愛しているなら、怒らねばならない」という白洲正子の言葉通り、怒りながら皮肉をまぜて「美しくない日本の景観」をとにかく挙げ連ねています。
電線、鉄塔、看板、広告、コンクリート土木、周りと調和していない建築物・・・
全九章のうち、一章から七章までは怒っています。
さすがにこんなに怒られると疲れました。皮肉多いですし。
でも確かに私も日本の景観については、
「日本の風景って、無規則で方向性なくて、でも細かい隙とか段差はきれいなのに全体として見たら破綻しているなぁ。あと原色だらけの看板が溢れててうっとうしさ満点。」
とは思っています。
ただ、そうは思いつつ、
「ま、こんなのアジアンな混乱景観もいいんやない?」
などと勝手に思っていました。
が、著者はこのような開き直った考えにも怒ります。
「混沌こそアジアという自己嫌悪の思い込み」「その理屈はモダニズムを推進する学者の言い訳」「シンガポール、マレーシアの都市景観は混沌としていない」
そこで、八章で著者の提案に移ります。
「これからは観光業」「景観工学ってのがあるんだから、適用させよう」
と書いたと思ったら、八章の終わりでまた怒っていました。
なんだか、可愛さ余って憎さ百倍、を思い出します。
日本好きなんだろうなぁ。
でも、やっぱり日本人は街並みサイズでデザインを統一させるのって苦手なんじゃないか、って気がします。なんとなくですが。
細かいの、例えばビルひとつ、家ひとつは得意だと思いますが、
大局的にビル、家、道路、自然の組み合わせ、ってなると、、、どうなんでしょう。
最後に、最終章で著者が関わった再生プロジェクト(京都、小値賀、祖谷)を紹介していました。
長崎県小値賀に行ってみようと思いました。
<よかった言葉>
・「犬馬難 鬼魅易」(けんばむつかし きみやすし)
← 犬や馬(ありふれたものを周りと調和させながら)は描きにくく、
鬼(奇妙で単独で目立つもの)は描きやすい
・観光業は、その土地に景観の美しさやロマンがあるか、その美しさとロマンを今に伝えられているか、が大事。
地方消滅
続けて、地方消滅です。
この本も人口動態から始まります。
20~39歳の女性が半分以下になる、老人&生産年齢人口も減少する →
893の地方が消滅する、と書いています。
ただ20~39歳の女性人口が半分以下になったあと、どうなっちゃうのか、どう消滅するのかは書かれていなかったので想像できませんでした。
とにかく地方が危ない、というか、人口が減ってしまって現状のシステムでは耐えられないというのは想像できます。
本書での提言は、
減少する要因のひとつである地方→東京に集まっちゃう若者を、せめて地方の拠点都市がダムとして集められるようにしよう、そこにカネをかけましょう、ということでした。地方の山村は捨てちゃおう、とも読み取れましたが。
いずれにしても人が減るのは予想されるので、個人的には、
・減少率の傾きを減らす政策を実行する。(急減したら対応が大変だから)
・人口が「徐々に」減っている間に自治体のサイズも減らしていく。
というのができればいいのでしょう。人口がものすごく少なかった江戸時代にも山村に人はいたし、集落はあったはずですから。
ただ、自治体のサイズを減らす、ということは政治的に難しいはずです。
2050年の世界
時間ができたこともあり、「2050年の世界」を読みました。
この本は、UKのthe Economistが「2050年ってどんな世界になるんだろう」を予想しているものです。あくまで予想です。何がどこまで当たるかわかりません。
ただ、人口統計については実際に近い数字が予想可能、らしいです。
(この前読んだ地方自治の本にも書かれていました。「地方消滅」にも書いてたな。)
で、その比較的当たるらしい人口予想は以下の通り。
世界全体で急激に人口は増えていますが、2040年くらいが変曲点になっていて、ここらへんで人口増加率が下がっています。ほとんどの地域で2040年あたりから増加率が下がっていき飽和状態に向かっていきそうですが、アフリカだけは先が見えません。
この2000年以降急増しているアフリカの人口が、今後、経済成長に寄与するのか、それともただ人口が増えるだけになるのかはまだわかりません。ただし、人口予想を見る限りアジアの次にアフリカの成長がくる可能性はあります。
続いて個人的に興味を持った都市圏の人口ランキング。
東京圏は2025年でも断トツ世界一。35百万人。
人口密度ランキングではないので単純比較はできませんが、それでも東京は多いんでしょう。
他の章では、病気の未来や、言語と文化、温暖化、高齢化、科学、などの項目がありましたが、第1章の人口推計に比べて信ぴょう性が落ちる気がします。
気のせいかもしれませんが。
各章と最後に船橋洋一氏による「まとめ」が記されており、そこだけ読むでもいいかも、と思いました。
ということで最後のまとめ(by 船橋洋一)は、
・2050年、アジアは世界経済の半分の規模を占める。
(G7は、中国、米国、インド、インドネシア、ロシア、メキシコになる)
・国家間の格差は縮小していくが、国内の格差は拡大していく。
・強権政治の国々では民主主義は前進し、民主主義国ではカネと政治指導力劣化により後退する。
・高齢化。
・日本は衰退(GDPの面で。人口が減るから。)
その他、興味を持ったこと。
・中国の20代男女人口比 in 2025:
男:97百万 に対して 女:80百万
・宗教の世俗化
欧州のキリスト教:教会に行かなくなった
アメリカのキリスト教:教会がコンサート会場になった
・アメリカで宗教性が高い理由
流動性が高く、治安も悪い(殺人発生率4.7/10万人)
c.f. 豪、中、韓、仏、英、独は1.0以下。日本は0.3。
・民主主義には、・法の支配、・道徳的報道、・公共心、 が必要
なんだけど、ロビイスト、圧力団体、官僚、政府のマスコミ操作で衰退するかも。
・高齢化に伴い、年金、医療費で財政圧迫 →
年金受給年齢をあげちゃえ。支給対象を絞っちゃえ。
・1980年以降は各国間の格差は縮小している。生産性が急上昇しているから。
でも、各国内の格差は拡大している。
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