英語学習のメカニズム:ほんの少し難しいインプットを大量に
「第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法」とサブタイトルがつけられていますが、本書は第二言語習得だけに関わらず、一般的かつ効率的な勉強方法を教えてくれます。
第二言語習得の流れを超簡単に書くと、下記のようになります。
「インプット」 → 「中間言語」 → 「アウトプット」
「インプット」「アウトプット」は文字を読んだり書いたり、言葉を聞いたり、話したりすることです。当たり前ですが、情報の出入りがないと言語の習得はできません。
そして、インプットとアウトプットの間には「中間言語」という「入ってきた情報」を、
脳内の短期記憶に保持して、
前後の文脈からその情報の意味を理解して、
自分の脳内の長期記憶の情報と照らし合わせる、
という処理が行われるステップがあります。
効率的に第二言語能力を向上させるには、この「中間言語」処理能力を上げて、情報をどれだけ素早く無意識に処理できるかが重要になります。
中間処理の具体的な例としては、
誰かに何かをしてあげて、"thank you"という言葉が返ってきたとき、私たちは特に思考せず読めるし、聞けます。
誰かに初めて会ったときに"how are you?"とか"hello"とか言われるときも同様です。how と are と youに分割していちいち文法を気にしたりしません。
これは「中間言語」が、その場の文脈から何を言われそうか、どんな文が出てくるのか、を自動的に無意識に処理しているからです。
(Daniel Kahnemanが述べている、脳のシステム1の部分と同じです)
この無意識で処理できる単語、文章が増えれば増えるほど、第二言語能力が上がります。
本書では、様々な「中間言語の能力を効率的に向上させる方法」が紹介されています。
その中で最も重要な部分を引用します。
インプットはまずもって理解可能でなければならない。大量のインプットを取り入れることは重要だが、例えば背景知識のないタガログ語のラジオを1,000時間聞いたところで、言語の習得には役に立たない。
(中略)
大切なのは、難しすぎず、簡単すぎずといった、ほど良いレベルのインプット("i+1"のインプット)を大量かつ継続的に取り入れることである。
この"i+1"の考え方はすべての勉強法に通じるものです。
例えば、あるジャンル(近代史とか日本経済とか自動車工学とか)について効率的に学ぼうと思ったら、
サルでもわかる入門書 10~20冊 → 入門書(新書レベル)5~15冊
→ 中級書(単行本、教科書)1~10冊 → 上級(論文)
のように、漸増的に進めることが一番理解を早めます。
継続は力なり、デス。
英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法
- 作者: 廣森友人
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 2015/12/20
- メディア: 単行本
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「分かりやすい表現」の技術:行政の文書を分かりやすくするには
本書は「分かりやすい表現」の技術を教えてくれる本です。
まず 「分かる」って何? ということですが、
「分かる」とは「情報が脳内で整理されている」ということ。
だそうです。
そして「情報が脳内で整理される」ということは何か、というと、
情報が、脳内の短期的記憶領域である一次記憶※を通過した後、長期的記憶を担当する「二次記憶」に適切に配置されること。
です。
※脳の記憶方法は、下記のように一次記憶と二次記憶の二段構えになっています。
一次記憶(作業記憶):7文字程度しか覚えられない一次的作業域。PCのメモリーと同じですぐ消える。
二次記憶(意味記憶):整理された情報がしまわれる長期的記憶域。PCのHDDやSSDのようなもの。
それでは、情報を伝える際に「スムーズに相手の二次記憶の一区画に情報を格納」
させるためにはどうしたらいいのでしょうか。
教育心理学者オーズベルによれば、認知しなければならない情報を与えられると、人は、すでに自分が持っている認知構造に関連づけて(意味をもたせて)認知します。
言い換えると、「分かる」とは、新しい情報の構造に関して、自分がすでに知っている情報の構造と照らし合わせ、それと一致するものを認識することです。
簡単に言えば、
分かりやすい表現とは、受け手が持っている知識に近い解釈しやすい情報
ということになります(書いてみると当たり前なんですけど)。
例えば、誰かに勉強(例えば英語)を教えようとするとき、TOEIC300点の人に900点レベルの内容を教えても理解されません。
300点の人には、300点の能力×1.1~1.3くらいの少しストレッチした難易度の内容を、優先順位をつけて勉強させることが効率的です。
本書に書かれているルールを抜粋すると、以下のようになります。
(本書ではルールが10x16もあって多かったので、私が勝手に集約しました)
1.受け手がどんな前提知識を持っているかを設定すること
2.はじめに全体地図(概要)を伝えて、その後、現在地(詳細)に移ること
3.表、図を使って情報を整理して、情報の受け手の負担を軽減すること
4,伝えたいことに優先順位をつけて情報を絞ること(情報サイズに注意すること)
ちなみに、行政の文書は分かりにくいとよく言われます。
(行政文書の「型」に慣れると早く読めるようになりますが、それでも解読に時間がかかる。)
行政文章の分かりにくい原因について、これらの4つのルールに照らして考えてみた場合、
一番の原因は、4の情報の「優先順位づけ(次に3の情報整理)」がうまくいっていないからじゃないかと思います。
(特に役所内部向けの事務連絡や資料はわかりにくさMAX)
どうしても、役所の文書は、読み手に誤解を生じさせないように(あとで怒られないように)、色んな説明や言い訳を織り込みがちです。
ひどいときには極小フォントサイズを駆使してまで情報を詰め込むときがあります。
行政の立場上、情報を詰め込むことは仕方がないにしても、
優先順位をつけて一ページ目、一言目に何を載せるのか(第一印象で何を伝えるのか)、
に注意して文書や資料を作ることはできると思います。
(補足説明(詳細や言い訳)は、取扱説明書や約款のように別ページで載せておけばいいのです)
まずは「伝えたい文を、短く太く大きく」から。
※最後に
本書は全4章のうち約半分の章が、著者が不満に感じている「世の中に溢れている分かりにくい表現例」で埋められていますので、すぐにでも分かりやすい表現の技術を学びたい人は、第4章だけを読めばいいです。
「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール (ブルーバックス)
- 作者: 藤沢晃治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/03/19
- メディア: 新書
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2050年の技術:これからの人類は自らのゲノムを操作する
英Economist誌が「2050年の世界」に続いて編集した、2050年の技術動向を予測している本です。
予測されている技術を並べてみると、、
・チップはあらゆるものに埋め込まれIoTが進む。
・誰もがヘッドセットを持ち歩く。ヘッドセットだけでなく、コンタクトレンズや網膜に映像を映し出しているかもしれない。
・自動運転タクシーにより、都市の車両数は90%減少する。都市部の駐車場はなくなり、再開発される。
・人工食品が増える。工場で生み出される野菜や肉が増える。これらは食料不足を防ぐ。
・核融合ができるかも。
・戦争にも医療にもなんでもAIが使われる。
・個人がさまざまな理由から、自らのゲノムを操作する。
・人間の脳はインターネットに繋がる(脳にデバイスをインストールする)。
これらのほとんどは現在の技術の延長上です。人間が使う「道具」の性能が向上していく、というものです。(全般的には、大量のデータが集まってそれをAIが帰納して演繹する、というテーマが多かったようです。)
しかし、その中でも異質なものがあります。
ゲノム操作とインターネットに繋がる脳です。
これらは、これまで人類が誕生して数万年間変わらなかった、「人間自体」の性能を向上させるものになります。これは、他の道具の性能向上たちとは別次元のものです。
技術的に可能ならば、人類は間違いなく知力や身体能力を上げるために遺伝子を操作するでしょう。そして、臓器、特に脳の改造も行うでしょう。
知的能力の高さと収入が比例するこの世の中では、脳にデバイスをインストールしないことがハンディになります。
これらの操作により、短期的には優秀な人たちが生み出されます。寿命も延びます。遺伝子操作のほうは、もしかするとガンダムのニュータイプのような新しい人類が生みだすかもしれません。
ただ、せっかく生物が生み出した「寿命と交配による多様性の確保」というシステムとは相反するやり方なので、天変地異や大規模な疫病が流行ったときには耐性が低くなります。
きっと美容整形のように、多数の人が似たような遺伝子操作や脳の改造を行うはずなので。
それにしても、核融合はいつできるんでしょうね。
2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する (文春e-book)
- 作者: 英『エコノミスト』編集部
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/04/14
- メディア: Kindle版
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魂でもいいから、そばにいて:人は物語を生きる動物である
東日本大震災では、死者・行方不明者一万八千人余りを出し、一万八千人以上の家族に悲劇をもたらしました。
本書では、東日本大震災の遺族が体験した、震災後の不思議な出来事が集められています。
「愛する人がいない世界は想像を絶する地獄です。」と繁さんは言う。そんな繁さんを慰めるかのように、妻と娘は夢にあらわれ、そして声をかける・・・。
風もなく窓も閉めきっているのに、ティッシュが激しく揺れたり、ドタンと大きな音がしたり。今でもよく起こるのは、(息子が)天井や壁を走り回る音です。
役場で(亡くなった兄の)死亡届を書いているときにメールを知らせる音が鳴ったんです。・・・受付のカウンターでメールを開いたら、亡くなった兄からだったんです。
≪ありがとう≫
ひと言だけそう書かれていました。
これらの不思議な体験は、再現不可能であり科学では取り扱えない事象です。しかし、科学的でなくても、他人には理解不能でも、急に身近な人を失った遺族にとってこれらの不思議な体験は生きるために必要な物語なのです。
例えば、身近な高齢者の癌や心不全などの病死の場合、家族にとって死を覚悟する時間的余裕は比較的残されているでしょう。一方、東日本大震災のような唐突に起こる大災害では、一度に多くの悲劇が無差別に非連続に、突然発生します。
遺された家族にとっては3.11を境に、それまで当たり前のように営んできた生活、物語が急に別のものに変わらざるを得なくなります。
親も子も死に、自分だけが生き残った世界で生きるためには、人間の脳は、生きるために、物語(不思議な出来事)を無自覚に作るのだろうと思います。
このような死が当たり前の世界で生きるためには何か理由がないと生きていけないのです。
本書で紹介されている不思議な現象たちは非科学的で再現不可能ですが、遺族にとっては生きるために必要なものであり、存在の有無を論じるべきものではありません。
同じような状況になれば、自分自身もきっとそのような物語にすがるはずなので。
ちなみに、被災者が当日に体験した内容について詳しく書かれた本としては、NHK出版による「証言記録東日本大震災」があります。こちらは、それぞれの人が地震のとき、どのように考え、どのように動いたかがわかります。
ムダな仕事が多い職場:中小企業こそ生産性向上の効果が高い
本書は、ムダな仕事が多い日本的な仕事のやり方と、合理的な海外の仕事のやり方を比較、紹介している本です。
本書で指摘する内容は以下の通り。
日本人の仕事のやり方:
・合理的目標が設定されていないためサービスの限界がない(サービス過剰)
・部分最適化に陥っている
・顧客や組織内の人間関係が上下関係であり対等な関係ではない
・マイクロマネジメントに陥っている
これらは既に広く知られた内容であり、本書でも抽象的、感覚的に説明されているだけで、読む価値は高くありません。
簡単に言えば、木を見て森を見ない日本人。
ただし、中小企業こそムダをなくせ、という最終章は興味深いです。組織が小さければ小さいほど、無駄削減による効果は高いですから。
ちなみに、日本人組織の典型である役所では、本書で指摘されているムダはフルコースで出てきます!
照会とか、帳面消しとか、たてつけとか、紙決済とか、、
個人的には、まずは照会と紙を減らすことが必要だと考えています。
夜と霧:生きる意味なんてやってこない
歴史上、人類が作り出した最も陰惨な環境であるナチスの強制収容所では、ユダヤ人の死亡率は90%以上という、死が当たり前の状態です。
その状態の中で、収容された人間の思考や感覚は鈍麻し、失われていき、多くの人が生きることを諦めていきます。
そのような極限状態で、なぜ生き延びようする意思を持てるのか、なぜ生きることを諦めないのか、を本書は教えてくれます。
(著者はユダヤ人として、ただの一労働者として収容されています。収容される前は精神科医。)
それは、本書で紹介されるニーチェの格言に集約されます。
「なぜ生きるのかを知っている者は、どのように生きることにも耐える。」
ここでの「なぜ生きるのか」の答えは、外から自動的に与えられる一般的ものではなく、 時々刻々の具体的な問いに「行動」によって答えることだと著者は言います。
簡単に言えば
「生きる意味って何だろう」なんて考えても生きる意味はやってこなくて、
「私がしないといけない仕事が待っている」とか「子どもを迎えに行ってごはんを食べさせないと」とかの、具体的な義務に答えていくことが「生きる」ということになります。
肉体も精神も極限の状態で、かつ死ぬことが楽で当たり前の世界では、誰かに必要とされていることが生きる意思の一助になります。
このような「他人による承認」を必要とする人間の脳のプログラムは、人間が社会的動物であることを如実に示しています。
生きる意味なんて悩んだってやってきません。
結果的に生きた行為しか残らないということです。
- 作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/11/06
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地方創生大全:ゆるキャラなんてやってる場合じゃないよ!
人口減少、高齢化により日本中の街が縮小している中で、小さくても少しずつ生き延びる事業をコツコツ進めてきた著者による「地方創生」の失敗する原因と成功する方法の紹介です。
紹介内容はものすごく当たり前で簡単なことです。
地方創生に大事なことは・・・
・どこでもやっていることではなく、他でやっていない自分たちの地域だけでできることに取り組むこと。
・事業のランニング費用が黒字になるようにすること。
・継続できるようにすること。
・地道な取り組みを小さく産んで少しずつ育てることに注力すること。
などなど・・・
色々書かれてはいますが、特に何度も書かれていることは、
「行政は地方創生にカネを出すな」
ということです。その理由も、当たり前のことなんですけど、
・責任者が曖昧になる。
・資金計画がテキトーになる。
・軌道修正が遅くなる。
などなど・・・
今の行政組織の運営方法や、事業の作り方というものは、昭和の戦後に人口が増加して、GDPも伸びる一方だった時代に形成されたものです。
例えば補助金。
伸びそうな職種や企業の成長の加速度を増やすのに使われます。
全体のパイ(人口とかGDPとか)が増えているときは、鉄鋼でも自動車でも半導体でも、量産効果で儲かることが多いので、その業界(と、その周辺)に再配分しておけば、まあまあ当たりますし、失敗しても他が伸びてるから隠れます。
一方、全体のパイが減っているときは、何が当たるのか誰もわかりません。
そんな中で外れにくいのは地道な改善です。
リターンも少ないですが。
本書で言っているのは、この地道な改善です。
別に華やかでもないし、目立つこともありませんが、地に足ついた改善は日本人に合う気がします。
ゆるキャラなんてやってないで
。