或る地方公務員の読書録

行政やテクノロジー、その他実用書について、技術者、自治体職員の視点から感想文を書いています。

新・所得倍増論:日本のシステムは人口増を前提に作られている

デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋

日本政府が既に「生産性革命しなければ!」と言っているくらい

 日本の生産性は低い

と言うのは巷に知れ渡っていますが、改めてランキングを見てみると、

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このように(予想以上に)低い位置にいます。

 

もちろん昔から生産性が低かったのではありません。

今低くなっているのは、1990年くらいから日本が成長しなくなったからです。 

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本書では「成長率がなぜ低くなったのか?」について様々なデータを列挙した上で、

日本型資本主義の基礎であった人口増が人口減に転じたことで、日本経済のあり方を全面的に変える必要がありましたが、いまだにその意識は足りない。だからこそ経済は停滞したままなのです。

と述べています。

 

誰もが知っている通り日本は人口減少(&少子高齢化)にまっしぐらです。

 

下のように、横軸を長めに取った人口推移グラフを見るとよくわかりますが、人口は2000年くらいまで急激な傾きで増加しており、2004年をピークに急降下しています。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

 

今、使われている日本国内の様々な仕組み(システム)は、この図中の「急上昇」の時代に作られたものです。しかし、今、私たちがこの「急降下」の環境にいるにも関わらず、「急上昇」したときの社会システムを使ったままであれば生産性向上など望めるはずはありません。

 

生産性を向上させるためにまず必要なことは、(国内)市場の前提が激変していることを認識し、私たちのまわりにある「急上昇」の時代に作られた仕組み(システム)が、今後の「急降下」の時代でも使えるのか使えないのか、それぞれの仕組みを検証することです。

 

【補足】少し古いですが、産業別の生産性比較(vs アメリカ)を見てみると、生産性が低い産業分野は日本国内を主な市場にしているものがほとんどです。

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行政が何か支援をするならば、日本の人口が増加することは確実にない(移民では減少分は補えないし、そもそも日本に来てくれる魅力がない)という前提に立ち、国内市場向けの産業分野に対しての海外販路の拡大支援、産業分野の変更に対しての補助、企業統合によるスリム化への補助、廃業への補助などが効果的かもしれません。

 

【補足2】生産性を向上するということは、端的に言えば「売上を上げるか」「原価を下げるか」のどちらかを行うことです。

 

生産性向上=原価を下げる(効率化)、というイメージが巷で流布していますが、原価低減活動ばかりを行うとその組織は間違いなく疲弊します。

 

なぜなら、原価低減の仕事の多くは明るい前向きな仕事ではないからです(私の工場での改善活動の経験からも、人を減らす活動はチームに暗い雰囲気をもたらします。これマジで)。

 

そして「イノベーションのジレンマ」のとおり、破壊的イノベーションは原価低減(持続的イノベーション:つまり改善活動)からは生まれないため、新製品開発や、ターゲット変更などの売上向上活動も並行して行うことが必須なのです。