或る地方公務員の読書録

行政やテクノロジー、その他実用書について、技術者、自治体職員の視点から感想文を書いています。

行政ってなんだろう:ここではないどこかの小さな村を想像してみよう

行政ってなんだろう (岩波ジュニア新書)

 

「行政」や「政治」という言葉は、市民全員が関わる割には中身がよくわからないものです。

例えば「教育」という言葉なら、誰もが小・中学校に行っているのでなんとなく想像ができます。

小・中学校に行かない場合、どのようなリスクがあるのかも想像できます(つまり市民は「教育」の必要性を認識できます)。

一方「行政」や「政治」については、毎年納税している割に、
 政府は何をしているのか、公務員は何をしているのか、そもそも何で必要なのか
がよく知られていません(公務員自身もわかっていないことがある これマジで)。

そんなときは本書を読むと「そもそも政治とか行政ってなんだっけ?」が理解(もしくは復習)できます。

本書では、
 第1章で、ヨーロッパ市民革命後の行政制度の変遷
 第2章で、日本の行政制度の変遷
 ・・・
のように、近代以降の人類の行政制度の変遷と行政の仕組みを「超簡単に」紹介してくれます。

特に面白いのは、プロローグの「ひとつの寓話」です。

少し長くなりますが引用します。

次郎と陽子が、灌木の林をあちこちに残すこの平原に、幸一の家族ら二十戸ほどで入植して、九年が過ぎようとしていた。

草地を耕し畑を開き、麦や綿花を植えつけた。

灌木を用いて丸太で家をつくったのはもちろんだが、テーブルや椅子、ベッドなどの家具もつくった。

 

次郎と陽子のあいだには、まもなく子どもが生まれ、いまでは八歳になる男の子と三歳の女の子に成長している。どこの家族も同じだった。

 

どこかの村に入植した次郎と陽子、幸一たちの寓話です。

やわらかな緑の草地には、名の知れない黄色や白の小さな花々が陽の光に輝いていた。みんなが集まったところで幸一は話を切り出した。

 

「おれたちがここに来てもう九年たった。おれのところもそうだが、みんなでがんばったかいがあって、自給自足も終わって、いくらか現金の蓄えもできた。でも仕事は忙しくなるばかりだ。自分の家の農作業をしたうえに、村のことをみんなでする時間を取るのは、だんだんむずかしくなってくると思うんだ。」

 (中略)

そこで提案なんだが、みんなで小さな学校を建て、金を出しあって、教師を町から一人雇わないか。」

 
人間が集まると共通の利害が発生します。
共通の利害が発生すると、共同で処理したほうが効率がいいケースが多々あります。

 

現在の政府、行政組織は多岐に分かれていますが、基本はこの「ひとつの寓話」のとおり、

 「人が集まった結果 → 共通の利害を調整して(政治) → 実行する(行政)」

をやっているだけです。それをプロ官僚(cf. マックス・ウェーバー「官僚制」とか)にさせるとか、利害調整のやり方をどうするとか(cf. 丸山眞男「政治の世界」とか)は、次の話です。


寓話では、教育と上下水道の利害調整が行われています。

原始的な住民の共通利害としては、道路橋梁、ゴミ捨て、消防なども入れてもいいかもしれません。

このように、現代のように行政が肥大化している状態のときは、
 「そもそも行政ってなんだっけ?」
を考え直すことが、行政の仕事をチェックする際に非常に役に立ちます。

ふと「行政ってなんだ?」が気になったら、本書を手に取るか、
もしくは人口の少ない自治体の組織図でも覗き見てみましょう。

日本の自治体ごとの人口ランキング
https://uub.jp/rnk/cktv_j.html

青ヶ島村(日本で一番人口の少ない自治体)組織規則
http://www.vill.aogashima.tokyo.jp/office/reiki_int/reiki_honbun/g163RG00000016.html

※ちなみに,本書では「小さい政府日本」への批判トーンが強いです。岩波なので仕方ないですが。。

<他のおすすめ>

官僚制  政治の世界 他十篇 (岩波文庫) 

 

 

行政ってなんだろう (岩波ジュニア新書)

行政ってなんだろう (岩波ジュニア新書)