失敗の本質
この本は、大東亜戦争における日本軍の戦い方、負け方を分析し、日本軍、日本人が失敗に至る原因を探る書籍です。
などと、改めて紹介する必要がないほど有名ですが、今回読んでみて、この本は左翼的な「自虐」とはまた違った自虐本だなと思いました。
左翼的自虐に関しては
「日本人は戦争のときに他民族に迷惑をかけた悪い国だ」→「悪いことしてごめんなさい」
などをすることで、自分たちの心の負い目を減らすことができるかもしれませんが、
この本が列挙している日本人のダメさ(目的曖昧、空気で決めるなど)については、
「今も日本人って変わってないし、これからも変わらないんじゃないか?」
というのを沸々と感じて、今後何をしたらいいのかも思いつかず、読んでいたら気分が滅入ってきて落ち込むだけになりかねない本です。
ということで本の内容ですが、まず、なぜ日本軍の戦い方、負け方を分析することで、日本人の失敗の本質がわかるかというと、
そもそも軍隊とは、近代的組織、すなわち合理的・階層的官僚制組織の最も代表的なものである。
そのとおりで、やっぱり、ある国が近代的総力戦に勝とうとすると、目的を達成するためにその国の組織・資源を最適化、効率化していくはずです。それなのに、本書の第一章で列挙されているように、日本は情けないほど無残に負けていきます。
その原因は、第二章の見出しに書かれているとおり
あいまいな戦略目的 と 主観的で機能的な戦略策定ー空気の支配
の大きく2つです(本書では他にもたくさん書かれていますが…)。
まず、あいまいな戦略目的についてですが、戦略目的があいまいだと、誰もが目的を解釈し放題になります。例えば「世界平和」みたいな目的については誰も反対出来ない代わりに誰もが好きな解釈ややり方をすることが可能です。
よって、現場が良かれと思って思いつき戦略を出してきたときに、その思いつきを止めたり補正したりする上位の価値観として機能しなくなります。さらに、組織全体が同じ目的、目標、手段を共有できず各組織がばらばらに行動することになります。
また、日本軍では、中間管理職が短期的戦略を思い付きで決めたあと、その思い付き戦略に当てはまる事実を中間管理職以下が当てはめていく(本書ではこれを主観的で帰納的と呼んでいる)手順を採っていきます。
その短期的戦略を決めるのは、事実でも論理でもなく、中間管理職の声の大きさや、ボトムアップの根回しや合議による空気によって決まっているため、事実と乖離した状況があとで発生すると、先に進むためには大和魂で押し切るしかなくなります。
で、これらって、今でも典型的に日本のブラック企業や役所に起きていることじゃないか、と思うわけです。
ワタクシの個人的経験(欧米や日本での民間企業勤務や自治体勤務)からイメージ図を作ってみると、こんな感じ。
(大東亜戦争は10年もやっていませんが)
日本人は短期的な目標に対して、リソースを投入します(徹夜も厭わない)。でも全体を包括する目的、物語が弱いです。微視的なので、何をどこまでやっていいかわからず、重箱の隅まで綺麗に整えようとします。でもどこに向かっているのかは誰もがよくわかっていません。
街並みで例えると、それぞれのビルや建物、側溝や公園は各々綺麗です。でも全体的に不調和です。
一方、欧米(だけかは知りませんが)は、組織を包含する目的を作ることにリソースを投入します。数か月、数日レベルは、後から補正すればいいよ、くらいの気分です。なので、細かい仕事は雑な感じです。短期的な処理はすぐアウトソースするし。
(でもイギリス人もいざとなると徹夜してました)
街並み全体は美しく見えるけど、足元はたばこやゴミだらけ、みたいな感じ。
なぜこのような傾向になるかの考察は「失敗の法則 by 池田信夫」に書いています。
日米欧の傾向に優劣をつけるつもりはありませんが、長期的視野、科学的思考はもっとあってもいいと思います。ただどうやって手に入れるのかは難しい問題です。
※第一章のそれぞれのケース(ノモンハンとかインパールとか餓島とか)に特に興味がなければ、第一章は読まなくていいと思います。読み物としては読みにくいため。
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
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